ニューロダイバーシティとは?企業が成長を遂げるための経営戦略
「ニューロダイバーシティ(神経多様性)」は「Neuro(脳・神経)」と「Diversity(多様性)」を組み合わせた言葉で、「脳や神経に由来する個人レベルでの様々な特性の違いを多様性と捉えて相互に尊重し、社会の中で活かしていこう」という考え方のことを指します。(経済産業省 経済社会政策室)
企業のダイバーシティ&インクルージョン推進の一環として近年注目されている概念ですが、ニューロダイバーシティを尊重した職場作りは、社会的責任(CSR)を果たすための障害者雇用から一歩進んで、個人の得意分野や才能、認知の多様性を企業の「競争優位性」へと昇華するための重要な経営戦略です。これを実現するには、多様な特性を持つ人財を効率的に採用・管理するためのテクノロジーインフラの整備が不可欠となります。
ニューロダイバーシティ:人財マネジメントにおける新たなアプローチ
特性のある人財特有の視点は従来の枠にとらわれない問題解決力に繋がり、イノベーションの源泉となり得ます。しかし日本ではいまだに多くの企業が画一的な採用・評価基準に縛られ、様々な特性を持つ優秀な人財を採用段階で見逃したり、彼らのポテンシャルを業務で十分に活用できていないのが実情です。こうした状況を打開するために、認知特性の違いを排除すべき「欠点」ではなく、組織を活性化させるための「強み」として捉え直す発想の転換が求められます。
ニューロダイバーシティを実現するには、脳や神経の多様性は、人類全体においてグラデーションのように連続的に現れる自然なあり方(スペクトラム)であるという考え方を浸透させることが大切です。ADHDなど、発達障害に対する認識を見直し、会社全体で特性のある人財を受け入れようとする土壌を形成する必要があります。
受け入れにあたっては、改正障害者差別解消法で定められた合理的な配慮の提供だけに留まらず、誰にとっても働きやすい職場環境を構築することで、全社的な従業員エンゲージメントの向上も期待できます。さらに、多様な従業員を管理する上では、個人のスキルを可視化し適切な就労環境を提供する次世代の人事プラットフォームなど、人財マネジメントのためのテクノロジーの導入も効果的でしょう。
“つまり、働き方、マインドセット、人財の関係性を改革し、すべてをひとつのエコシステムに統合する必要があります。”
ニューロダイバーシティとは?
経済産業省が発表したレポートでは「ニューロダイバーシティ(神経多様性)」とは、「Neuro(脳・神経)」と「Diversity(多様性)」という2つの言葉が組み合わされて生まれた「脳や神経に由来する個人レベルでの様々な特性の違いを多様性と捉えて相互に尊重し、社会の中で活かしていこう」という考え方だと定義されています。また、ニューロダイバーシティでは発達障害を「人間のゲノムの自然で正常な変異」として捉えます。
企業はダイバーシティ&インクルージョン推進の一貫として、多様な人財を受け入れて活躍機会を創出することが求められていますが、発達障害の特性への対応もその一つです。発達障害のある人を含む多様な人財の意見を取り入れて職場環境を作っていく過程で、組織全体の業務や文化が見直され、障害の有無に関わらず様々な属性の社員の働きやすさ、イノベーションの創出や生産性の向上に繋がっていくことも期待されています。
ニューロダイバースな人財の活躍機会の創出は、企業がこれまで積極的に採用してこなかった「未開拓の人財」を獲得し、ダイバーシティ&インクルージョン推進を通じて組織力を強化する手段であり、デジタル化を含め、変化が加速する世界において、大いに注目すべき成⾧戦略であると言えます。
ニューロダイバーシティの始まり
世界でニューロダイバーシティの取り組みが始まったのは、2004年にデンマークのスペシャリステルネというIT企業が、自閉症のある人にソフトウェアテスターの適性があることに着目し、自閉症を持つ人財を競争力としてソフトウェアテストコンサルティング業を開業したことがきっかけです。これに世界的な大企業が続き、IT分野や金融、製造業にまでニューロダイバーシティの取り組みが広がっていきました(経済産業省 経済社会政策室)。
一方日本では、2013年6月に障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として、障害者差別解消法が制定されました。この法律では、行政機関や事業者に対して、障害のある人への障害を理由とする「不当な差別的扱い」を禁止するとともに、「障害のある人から申し出があった場合に負担が重すぎない範囲でその求めに応じた合理的配慮をする」ことが定められています。さらに、2024年4月に施行された改正障害者差別解消法によって、事業所による「合理的配慮の提供」が義務化され、障害のある人にとって働きやすい職場環境を整備することがより強く求められるようになりました。(政府広報オンライン)
コンプライアンス遵守のための障害者の雇用は日本でも進んでいますが、近年では海外の先進的な企業の事例を参考に、ニューロダイバーシティを人財活用戦略の一つとして実践する企業が増加しています。
ニューロダイバーシティと従来のダイバーシティの違い
では、従来のダイバーシティ(デモグラフィック・ダイバーシティ)とニューロダイバーシティはどのように異なるのでしょうか。いくつかのポイントに基づいて説明していきます。
注目する属性の違い:従来のダイバーシティが性別、年齢、国籍、人種、身体的障害など、主に外的な属性に注目するのに対し、ニューロダイバーシティは脳の機能や情報処理プロセスといった内的な違いに焦点を当てます。
評価の視点の違い:従来のダイバーシティは女性管理職の割合など、人口統計的、つまりデモグラフィックな「比率の達成」や、制度上の公平性の確保を重視しますが、ニューロダイバーシティでは、ニューロダイバースな人財を評価する側の認知バイアスの打破や、「特異な強み・思考パターン」の最大活用が重視されます。
必要とされる配慮の違い:従来のダイバーシティでは物理的な障壁の除去や機会均等など構造的平等が求められるのに対し、ニューロダイバーシティでは心理的安全性の確保、コミュニケーション方法の調整、柔軟な業務の配分が鍵となります。
組織にもたらされる恩恵の違い:従来のダイバーシティが組織の公平性確保、多様な顧客視点の獲得に繋がるのに対し、ニューロダイバーシティの場合、従来の発想にはない画期的なイノベーションの創出、特定分野における生産性向上が期待されます。
マネジメント手法の違い:従来のダイバーシティでは、人種や性別などの違いを超えた公平性を確保するため、全体最適をベースとした均一的な制度設計が行われます。しかし脳の働き方や情報処理のプロセスが異なる人を対象としたニューロダイバーシティの取り組みにおいては、個人のスキルや認知特性に合わせた「超・個別化」された管理が必要になります。
ご存知でしたか?
“ニューロダイバースなチームは、そうでないチームに比べ、約30%効率性が高いと言われています。また、社員が障害を持つ同僚の「仲間」またはメンターとして行動する「バディシステム」を導入している組織の収益性は16%、生産性は18%、顧客ロイヤリティは12%上昇しています。”
1. イノベーションの創出と問題解決のスピード向上
ニューロダイバーシティは、自社で活躍し得る人財の幅を広げることに繋がります。人財獲得競争を優位に展開できるだけでなく、ニューロダイバースな人財ならではの多様な強みや特性を活かすことで、イノベーションが生まれやすく、問題を迅速に解決できるといった効果が期待できます。
2. 特定領域における圧倒的な生産性の獲得
ニューロダイバーシティ拡大の契機となったデンマークのスペシャリステルネは、発達障害のある人とデジタル業務との親和性を見出し、生産性の向上に成功しました。このように、特性を持つ人はある分野や領域で優れた能力を発揮することが知られており、こうした人財を採用することで特定領域における圧倒的な生産性を確保することが可能です。
3. 優秀な「未開拓の人財」の確保と離職率の低下
ニューロダイバーシティの取り組みで採用の対象となるのは、能力があるにも関わらず、これまで企業が見出せなかった、あるいは採用から漏れていた「未開拓の人財」だと言われています。採用後も合理的配慮だけでなく、評価や面談、サポートを継続して、安心して働き、能力を発揮できる環境の整備に努めることで、ニューロダイバースな人財は成果を上げ、社内の信頼を築き、キャリア形成・ステップアップを実現できます。その結果、離職率も低下します。
4. 管理職の総合的なマネジメント能力の底上げ
ニューロダイバーシティ実現のための研修やトレーニングを行うことで、管理職層のダイバーシティに対する意識が向上し、会社全体のマネジメント能力が底上げされます。
5. 組織全体のエンゲージメントと帰属意識の醸成
多様な特性のある従業員をを受け入れることで相互理解と相互尊重の文化が生まれ、企業全体のエンゲージメントが向上するだけでなく、帰属意識の醸成にも繋がります。
ニューロダイバーシティの実践上の課題
一方で、ニューロダイバーシティを推進する上では、次のような課題や障壁が生じる場合もあります。
1. 画一的な人事評価制度との不整合
サポートや配慮が必要な特性を持つ人財の能力評価に、一般社員向けの人事評価制度を適用すると、適切な評価が下されない可能性があります。障害のある人向けに評価制度を策定・改変するほか、評価制度そのものを一律評価から成果・特性に応じた個別評価へシフトしていく必要があるでしょう。
2. 職場におけるコミュニケーションギャップの発生
発達障害などの特性のある人は対人コミュニケーションを苦手とする場合が多く、同僚との間にコミュニケーションギャップが生まれることがあります。メッセージアプリを使用して、テキストベースのコミュニケーションを積極導入するなど、社内のコミュニケーションを円滑にする環境を整える必要があります。
3. マネージャー層への負担増加と知識不足
マネージャー層の受け入れ準備が追いつかないと、発達障害やニューロダイバーシティについての十分な知識がないまま、取り組みそのものが形骸化する恐れがあります。マネージャー層への事前の研修やトレーニングが不可欠です。
4. テクノロジーインフラの未整備による個人スキルの不可視化
個人のスキルを可視化し一元管理するツールがなければ、特性のある人財を適切なポジションに配置するのは困難です。多様な人財を管理するためのテクノロジーインフラの整備も、ニューロダイバーシティの推進に欠かせません。
ご存知でしたか?
“日本では、2060年までに生産年齢人口が約35%減少し、成⾧市場であるIT業界では2030年時点でIT人材が需要に対して約79万人不足するとの試算もあります。”
ニューロダイバーシティを実現する6ステップ
では、実際にニューロダイバーシティを実現するには、どのような取り組みが必要なのでしょうか?ここでは、経済産業省の国内企業における事例集やレポートに基づき、中堅・中小企業が導入しやすい6つのステップを解説します。
1. 経営トップによる公式なコミットメントの表明
経営トップがニューロダイバーシティの取り組みを進める担当部署を明確にし、障害のある人を一般業務で雇用する必要性や目的、それによって見込まれる効果を整理します。役職者・経営層で合意形成を行い、ニューロダイバーシティ実現を事業の成長戦略の一部と位置付け、全社的な取り組みであることを表明します。
2. 全社的な意識改革と心理的安全性の構築
全社的に発達障害に対する研修や教育を行うことで、障害のある人に対する偏見を解消し、ニューロダイバースなメンバーを受け入れるための意識改革を行います。業務上の得手不得手などを理解することで、障害のある人が安心して働ける環境の土壌となる「心理的安全性」を構築します。
3. 採用プロセスと選考方法の抜本的な見直し
協力部署や支援機関等の外部機関を決定して連携体制を構築し、採用目標、職域、待遇を設定します。発達障害の特性を理解した上で、採用したい人財要件を明確にします。また、選考に当たっては、能力を正しく評価する視点や基準を定めましょう。採用プロセスを可視化し、スムーズに進めるために応募者追跡システム導入の検討も始めておきます。
4. コミュニケーションおよび職場環境の最適化
採用した人財にサポートやトレーニングを提供しつつ、受け入れ部署側の教育や啓発を行うことで従業員同士のコミュニケーション方法や物理的な職場環境を最適化します。
5. 個を評価できる柔軟なキャリアパスの設計
採用した人財を継続的にモニタリングします。定期的な人事面談や人事評価を行いながら、一人ひとりのキャリアパスを検討し、目標とするコースを本人と一緒に設計していきます。
6. デジタルテクノロジーを活用したタスク適性の可視化
ヒューマンキャピタルマネジメント(HCM)などのデジタルプラットフォームを活用し、従業員のスキルやポテンシャルを可視化、一元管理することで、個人の能力や特性に合わせ、「超・個別化」された管理が可能になります。
“膨大な人事データを柔軟に活用できなければ、当社は大きなリスクを抱えることになります。新規市場への拡大を検討している場合や、ダイバーシティとインクルージョンの取り組みを優先させている場合は特にそうです。”
ニューロダイバーシティを実践した企業の実践例:楽天ソシオビジネス株式会社
ここで、経済産業省がまとめたニューロダイバーシティに関する国内企業の実践事例集から事例を一つご紹介します。
楽天ソシオビジネス株式会社は、楽天グループ株式会社の人事部に紐づく組織として2007年に特例子会社として設立されました。社員約400名中、障害者は300名超で、WEB制作、印刷、総務・メールセンター、事務代行などの業務を行っています。
同社のニューロダイバーシティ推進のポイントとして、採用プロセス、業務遂行体制、人事評価制度の3点があげられます。
採用では社会人経験の有無を問わず、業務内容への適性・自己理解に対する姿勢を評価軸とした職種ごとの採用を実施しています。「挑戦」「成長」「自立」「共生」を柱とし、業務は5〜10名のチーム制で、精神的な余裕や安心感を持った状態で仕事ができる環境を作っています。なお、人事評価については障害の有無にかかわらず基本的に同じ評価制度が用いられ、グループ会社の評価項目をベースに、職歴や障害の状況に応じて、仕事に対する姿勢「ビヘイビア」と仕事の実績「パフォーマンス」に基づいた評価を行っています。
これらの取り組みによって、楽天ソシオビジネス株式会社では企業イメージの向上や職場環境改善だけでなく、組織風土の改革や社員の満足度、エンゲージメント向上や業績拡大、生産性向上・新規事業開発・イノベーション等の面でも成果をあげていると分析されています。
楽天ソシオビジネス株式会社が属する楽天グループは世界30か国に展開する複合企業で、傘下に収める会社は200社にのぼります。こうした多様性と複雑さを併せ持った企業では扱うデータもまた同様に多様で複雑ですが、かつては人事業務が手作業で行われていた地域もありました。社員の全体像を把握し世界規模で人財管理を行うため、同グループはWorkday ヒューマンキャピタルマネジメント(HCM)に続いてWorkday リクルーティングを導入し、スキルベースの人財管理に対応しました。その結果、楽天グループではWorkdayを活用することで社員や人財管理方法を世界規模で標準化することに成功し、データに基づいた戦略の構築を可能にしています。
ニューロダイバーシティの実践にWorkdayを活用しよう
中堅・中小企業にとっても、ニューロダイバーシティの促進・実現はコンプライアンスの遵守や企業のブランドイメージ向上という観点だけでなく、企業の発展、成長のために避けて通れない課題です。人事プロセスの効率化と人財一人ひとりに合わせた体験の両立を目指す経営者の方に、Workdayツール導入のご検討をおすすめします。
たとえばWorkday Skills Cloud(スキル クラウド)でAIを活用して従業員一人ひとりのスキルやポテンシャルを可視化し、Workday Everyday HCMで各自の特性に合わせた就労環境を提供することで、パーソナライズされた従業員体験を実現できます。また、データに基づいたDEIB(Diversity, Equity, Inclusion, Belonging)の分析情報を使用して、ニューロダイバーシティの取り組みの現在地をモニタリングすることも可能になります。さらに、中堅・中小企業が世界のベストプラクティスを迅速に導入するためのパッケージとして、Workday GO 人事・財務管理向けパッケージもご用意しています。
Workdayがお手伝いします
Workdayは、信頼できるテクノロジーパートナーとしてインクルーシブな職場環境づくりをサポートします。まずは 中小・中堅企業向けWorkday GOパッケージ の最新のソリューションや、Workday タレント オプティマイゼーションの簡略版デモをご確認ください。
FAQ
ニューロダイバーシティの具体例は?
たとえばセブン銀行では2024年よりニューロダイバーシティの取り組みを開始し、発達障害をもつ社員を初めて採用しました。聴覚過敏や通勤時の疲労などに配慮しつつ、本人の得意分野を活かしたデータ分析のポジションに配置した結果、さまざまな業務効率改善を実現しています。またオムロングループは企業理念「人間性の尊重」を掲げ、積極的にニューロダイバース人財を採用しています。約半年におよぶ採用プロセスでは、長期インターン制を取り入れて業務とのマッチングを丁寧に行い、採用決定にあたっては安心できる環境を整えるために手厚い受け入れ準備を行っています。その結果、採用されたニューロダイバースな人財は各職場で活躍し、事業にとって大きな戦力になっています。
特性を抱えていても診断書や障害者手帳を持たない従業員の扱いは?
厚生労働省職業安定局事務局説明資料「障害者雇用率制度の在り方について:手帳を所持していない精神・発達障害者の位置づけ」には、「障害者手帳を所持しない発達障害者、難治性疾患患者等に対しても、障害特性に応じて適切な支援が受けられるようにすることが重要である」とあり、手帳を所持していない発達障害のある従業員に対しても、一定のサポートの提供が望ましいとされています。特に2024年4月の改正障害者差別解消法施行により企業に義務付けられた「合理的配慮」は、障害者手帳の有無に関わらず適用される可能性があります。
ニューロダイバーシティの提唱者は誰ですか?
諸説ありますが、1990年代後半にオーストラリアの自閉症の社会学者であるジュディ・シンガー氏が提唱したとする説が一般的です。
ニューロダイバーシティのメリットは?
ニューロダイバーシティを推進することで、企業イメージの向上や職場環境改善に加えて、組織風土の改革や、社員の満足度・従業員エンゲージメントの向上や業績拡大、さらに生産性の向上やイノベーションの創出といったメリットが得られます。
中小・中堅企業がニューロダイバーシティに低コストで取り組むには?
ニューロダイバーシティに取り組む中小・中堅企業が利用できる各種助成制度があります。たとえば、厚生労働省ではハローワーク等の紹介により発達障害者または難治性疾患患者を継続雇用の労働者として雇い入れた中小企業に対し、120万円を支給します(特定求職者雇用開発助成金、発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)。また、東京都には「東京都中小企業障害者雇用支援助成金」制度があり、厚生労働省の助成対象期間が満了となった企業に対して引き続き助成を行っています。こうした制度をかしこく利用するとともに、Workday GOをはじめとしたデジタルツールを活用することで、低コストな取り組みが可能になります。