賃上げとは何か、その本質を理解する。
賃上げとは、基本給や手当の引き上げによって従業員の賃金水準を向上させることを指します。近年では、これは単なる人件費の増大ではなく、激化する人財獲得競争を勝ち抜き、持続可能な企業成長を支える「投資」として再定義されるようになりました。この記事では、賃上げの本質的な意味や目的、また企業の成長に効果的な賃上げのプロセスをご紹介します。
賃上げ: 持続的な企業成長を導く人事戦略の再定義
過度なインフレの進行や深刻な人手不足、優秀な人財の競合他社への流出といったリスクに経営者は常に頭を悩ませています。こういった課題に対処し、企業を持続的な成長に導く戦略的ソリューションの一つが賃上げです。賃上げには社員個人の基本給を引き上げる「定期昇給」と社員全体の給与水準を引き上げる「ベースアップ(ベア)」の 2 つのアプローチがあります。それぞれ目的が異なりますが、インフレ対策としての賃上げは、主にベースアップで対応します。賃上げは従業員の生活を守るだけでなく、従業員エンゲージメントと生産性を高める契機にもなります。
中堅・中小企業の賃上げ成功は、財務の可視化と人事評価制度の連動にかかっていると言っても過言ではありません。賃上げ促進税制などの公的支援策を賢く活用し、中長期的な財務計画と整合させることが重要です。そのため、データに基づいた持続可能で機敏な報酬決定を支える給与計算の自動化テクノロジーの導入が鍵になります。
賃上げとは何か?
賃上げとは、基本給や手当の引き上げによって従業員の賃金水準を向上させる取り組み全般を指します。一時金である賞与とは異なり、恒久的な賃上げは企業のコスト構造に影響を与える一方、人財獲得を加速させるメリットがあります。
“2024 年度における賃金引上げを実施する理由として、「社員のモチベーション向上、待遇改善、離職防止」と回答した企業が最多。具体的な企業の声としては、「人材確保や社員の生活環境改善のために引き上げる」などが聞かれた。”
日本における賃上げの変遷
第一ライフ資産運用経済研究所の経済分析レポートによると、過去 20 年近くにわたり、日本企業は団塊世代の退職に伴う退職金支払いの急増やシニア層の雇用延長などによる人件費の増加を警戒して基本給を底上げするベースアップを慎重に抑えてきました。しかし、2023 年頃からはバブル世代の退職による人員構成の変化に加え、物価上昇への対応や、優秀な人財の確保に向けた企業間の競争激化などが追い風となり、積極的な賃上げへと方針が転換されました。
独立行政法人 労働政策研究・研修機構の統計資料からは、2000 年代から 2010 年代にかけて長らく 1〜2%台で低迷していた主要企業の賃上げ率が、2023 年以降、大きな転換期を迎えたことがわかります。2024 年そして2025 年と、5%を超える大幅な賃上げが 2 年連続で実現し、約 30 年ぶりの高水準を記録しています。
定期昇給」と「ベースアップ(ベア)」の違い
「定期昇給」は年齢や勤続年数、評価の向上に応じた個人の昇給制度で、従業員の成長や貢献に対する継続的な評価とモチベーションの維持が主な目的です。従業員のライフサイクルから支給額の予測がしやすく、人事戦略上、社内の公平な評価制度や定着率の向上に直接寄与する役割を果たします。
一方「ベースアップ(ベア)」は会社全体の給与水準(賃金テーブルそのもの)を一律に引き上げる措置であり、インフレへの対応や、他社と比較した初任給・給与水準を底上げすることを目的としています。企業全体の固定人件費が恒久的に底上げされるので、慎重な予算管理が求められますが、労働市場における企業の採用競争力を一気に高める効果があります。
ご存知でしたか?
2040 年までに、賃金(時給)が現在の 2 倍になるかもしれません。経済産業省は、2040 年までに 200 兆円の国内投資目標が順調に達成されれば、現在の春季労使交渉ベースである約 5%の水準で賃金の上昇が続き、2040 年度の賃金はフルタイム・パート合計の時給換算で現行の 2885 円から約 2 倍の 5366 円になると試算しています。
企業が賃上げを実行するメリット
賃上げには、企業にとって次のようなメリットがあります。
優秀な人財の獲得と離職率の低下
賃金水準の向上は、労働市場における採用力をダイレクトに高めます。競合他社への優秀な人財の流出を防ぎ、結果的に採用コストや育成コストの削減に寄与します。
従業員エンゲージメントと生産性の向上
自らの労働価値が適切に評価されているという実感は、従業員のモチベーションを劇的に高めます。心理的な安定が担保されることで、従業員の生産性が高まり、イノベーションへの意欲も向上します。
企業ブランドと社会的信用の強化
「従業員に還元する姿勢」を社会に示すことは、ESG 経営や人的資本開示の観点から高く評価されます。顧客、取引先、投資家からの信頼を深め、中長期的な企業価値向上につながります。
賃上げの実施に伴うリスクと課題
一方、賃上げは収益性や財政への負荷といった企業経営に大きな痛手をもたらすリスクも伴うため、特に中堅・中小企業にとっては慎重な判断が必要です。
人件費上昇が収益性を圧迫
売上成長が伴わないまま賃上げを強行すると、利益率が圧迫されます。一度引き上げた基本給は簡単には下げられないため、固定費の増大が将来の財務リスク要因となり得ます。
中堅・中小企業における資金繰りと原資の確保
大企業に比べて経営資源が限られている中堅・中小企業では、賃上げ原資の確保は大きな課題です。価格への転嫁や生産性の向上による対応が追いつかない場合、キャッシュフローの悪化による健全な経営への影響が懸念されます。
評価制度の不整合による社内の不満
一律のベースアップや形だけの賃上げは、パフォーマンスの高い社員の不満を招くことがあります。賃上げと連動した、透明性と納得感の高い新しい評価基準の設計が求められます。
ご存知でしたか?
令和7(2025)年の調査によると、賃上げを実施、または賃上げ予定のある企業が賃上げ判断において最も重視したポイントは「企業の業績」で、全体の 41.7%(前年 35.2%)に上ります。次いで「労働力の確保・定着」が 17.0%(同 14.3%)、「雇用の維持」が 11.9%(同 12.8%)となっています。
戦略的な賃上げを実現するための実践ステップ
ステップ1: 現状の人件費と財務状況を可視化する
まず、自社の総人件費や従業員セグメントごとの給与水準を正確に分析します。将来の収益予測と照らし合わせ、どの程度の賃上げが財務的に許容できるかをデータに基づいて把握します。
ステップ2: 賃上げの目的と手法(ベアか定期昇給か)を明確にする
採用競争力の強化が最優先であれば全体のベースアップ(ベア)、個人の意欲向上を目指すのであれば定期昇給や評価連動型の賃金改定など、自社の経営課題に合わせて手法を選択します。
ステップ3: 賃上げ促進税制などの支援制度の活用を検討す
日本政府が推進する「賃上げ促進税制」などの優遇措置の要件を精査します。控除率や適用条件を事前に確認し、減税メリットを資金計画に組み込んで負担を軽減します。
ステップ4: 従業員のパフォーマンス評価制度と連動させる
給与の引き上げが一方的な支出にならないよう、評価制度のアップデートを行います。スキルの獲得や成果に対する明確なインセンティブ設計を行い、賃上げが生産性向上につながる好循環を作ります。
ステップ5: 効果測定を行い継続的な改善サイクルを回す
賃上げ実行後、離職率の推移、採用成功率、従業員の満足度、および労働生産性の変化をトラッキングします。成果と課題を把握し、次期以降の報酬設計にフィードバックします。
“データの収集、集計、確認など一連の作業が 1 か所でできるようになり、人事業務の工数が大きく削減されました”
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攻めの人事戦略として賃上げを実行する
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