「アジリティ」のアプローチによるスキルアップがうまくいかない理由
職場における真のアジリティとは、実体験を通じて培われる脳の能力であり、生まれ持った才能や学習スタイルとは関係ありません。
Liz Pavese
職場心理学者
Workday
職場における真のアジリティとは、実体験を通じて培われる脳の能力であり、生まれ持った才能や学習スタイルとは関係ありません。
Liz Pavese
職場心理学者
Workday
2000 年代に入って以降、企業はリーダーシップ コンピテンシーの枠組みにおいて「アジリティ」という言葉を呪文のように唱えています。ロビーの壁には主要な価値目標として掲げられ、年次報告書ではキャリアアップを実現するための必須要因として取り上げられています。
絶え間ない変化と新しい働き方への対応が求められる現代において、アジリティは確かに重要です。問題は、企業が考える人間の学習方法と、成人脳が実際に機能する方法との間に大きな隔たりがあることです。その代償として多額のコストも発生しています。現在も多くのトレーニング プログラムは、科学が何年も前に否定した古い理論や誤解に基づいて設計されています。組織が生成 AI やエージェント型 AI をワークフローに積極的に導入する中、認知科学への理解不足は変革の進展を妨げています。組織が人を型にはめて分類したり、いわゆる「学習スタイル」に合わせたトレーニングを行ったりしている場合、変化に柔軟に対応するチームを育成することはできません。それどころか時代に取り残される硬直的な企業文化を構築することになります。
レポート
問題は、アジリティが固定的な性格的特性 (ある人にはあり、ない人にはないもの)、あるいは単にコンテンツを視聴すれば身に付くもの (動画を見ればアジリティが高まる) と考えられていることです。
実際には、ラーニング アジリティ (LA) とは 1980 年代に Center for Creative Leadership の研究を通じて提唱された概念であり、経験からすばやく学び、その学びを初めて直面する状況や困難な状況、あるいはこれまでとは本質的に異なる状況で効果的に活用する能力と定義されています。この能力は自己認識を基盤とする多次元的な概念であり、以下の 4 つの主要な要素で構成されています。
1.メンタル アジリティ: 複雑さや曖昧さに柔軟に対応できる力。
2.ピープル アジリティ: 優れたコミュニケーション能力を備え、建設的に対立を解決できる力。
3.チェンジ アジリティ: 新しいアイデアに強い関心を持ち、変革を率先して推進する意欲。
4.リザルト アジリティ: 困難な状況でも成果を出す力。
この点を正しく理解・実践することは極めて重要です。研究によると、ラーニング アジリティは長期的なパフォーマンスを正確に予測する指標として一般的な認知能力より優れています。David F. Hoff 氏と W. Warner Burke 氏は著書『Learning Agility: The Key to Leader Potential』の中で、ラーニング アジリティの高い組織は、市場低迷期においてイノベーションの創出率が 25% 高く、財務実績が 18% 優れていると述べています。
著名な認知神経科学者である Lucina Uddin 氏の研究によると、アジリティは神経可塑性と認知的柔軟性に根ざしています。これは環境の変化に応じて思考や行動を適応させる脳本来の能力を意味します。このプロセスを担うのが、実行機能の中枢である前頭前野 (PFC) です。一般的な IQ は成人初期以降に比較的安定しますが、PFC は高い可塑性を保ち続けます。リーダーは努力を伴う実践的な取り組みを慎重に積み重ねることで、脳そのものを鍛え、変化に適応する能力を意識的に開発・強化できます。
アジリティは生まれ持った才能ではありません。神経回路が生理学的に再構築されることで培われる能力なのです。
アジリティは生まれ持った才能ではありません。神経回路が生理学的に再構築されることで培われる能力なのです。
アジャイルなワークフォースを構築するには、まず 2 つの主要な誤解を正す必要があります。
人財育成の分野で最も根強く残っている誤解の 1 つが VAK (視覚型・聴覚型・体感覚型) 学習スタイルという考え方です。組織は「聴覚型学習者」や「視覚型学習者」に合わせてコンテンツをカスタマイズすることに多額の費用を投じています。しかし総合的な研究レビューによると、学習者の好みのスタイルに合わせて指導方法を変えても、学習成果が向上するという証拠はまったくありません。
これらはあくまで好みであり、能力を示すものではありません。それらを固定的な必須条件と見なすことは、社員が多様な形式の情報を処理する能力をかえって制限し、硬直性を生み出すことになります。
アジリティは生まれ持つものではありません。確かに一部の性格的特性 (「新しい経験を受け入れる開放性」など) はアジリティの促進要因になりますが、アジリティ自体は実践の積み重ねによって身に付くものです。アジリティを生まれ持つ固定された資質と見なす場合、リーダーシップ チームは中間管理者を育成せずに、外部から理想的な人財を採用し始めます。このような試みは高額なコストが伴うだけでなく、失敗に終わることが少なくありません。
アジリティをめぐる誤解は、経営幹部にとって単なる理論上の問題ではなく、戦略的リスクを招きます。これは 3 つの形で表面化します。
時代遅れの評価基準に基づいて社員を分類し、レッテルを貼る組織は、社員の真の才能や興味を無視することになります。
変化に柔軟かつ冷静に対応できるワークフォースを構築するには、単にコンテンツを配信するのではなく、能力を開発する必要があります。
人財を「型」にはめて分類することをやめます。代わりにアジリティを促進する要因に焦点を当てます。性格的特性ではなく、行動 (フィードバックを求める、慎重に見極めたうえでリスクを取るなど) を測定する評価方法を採用します。
コンテンツを消費することは学習ではありません。脳が新しい神経経路を形成するには、社会的交流と「適度な負荷」が必要になります。
AI が L&D (ラーニングと能力開発) にもたらす最大の価値は、視覚型学習者向けに多くのコンテンツを生成することではありません。状況に即したコンテンツを提供することにあります。Workday Skills Cloud などの動的なフレームワークを導入すると、社員の具体的なキャリア目標、パフォーマンス ギャップの現状、プロジェクトへの関心に基づいて学習機会を自動的にマッチングできます。パーソナライゼーションは形式に従って行うのではなく、関連性に基づいて行う必要があります。
完了したトレーニング時間を測定するのはやめましょう。このような指標に意味はありません。代わりに、成長、成果、意味のある仕事に対する意識の変化をリアルタイムに追跡します。Workday Peakon のデータによると、成長は社員エンゲージメントを高める最大要因であるだけでなく、離職防止に欠かせない要因となっており、その重要性は多岐にわたることを示しています。
組織は従来型のスキルアップという考え方を超え、成長という視点から包括的に考える必要があります。これは社員の心の支えとなり、達成感を促すことに直結するため、社員は自身の仕事に深い意義や関連性を感じられるようになります。
自身の仕事に意味を感じ、新たなマイルストーンに到達すると、社員の適応力は飛躍的に向上します。負担の大きい仕事や AI 導入などの大きな変化を乗り切れるようになるだけでなく、レジリエンスを持って対応できるようになります。結局のところ人財流出を採用だけで補うことはできませんが、人財の能力開発方法を変えることで、組織は柔軟性の高いワークフォースを構築することができます。
ソフトウェアをアップデートするようにアジリティを組織に組み込むことはできません。アジリティを開発するには、適切な生物学的・文化的条件を整備する必要があります。
流行語を追いかけるのではなく、神経科学と真剣に向き合う時が来ています。そうすることで、未来に対応するワークフォースを構築できます。
参考文献
Burke, W. W & Hoff, D.F.(2017 年)『Learning Agility: The Key to Leader Potential』オクラホマ州タルサ: Hogan Press 社
Heslin, P. A. & Mellish, L. B.(2021 年) 『Being in Learning Mode: A Core Developmental Process for Learning Agility』『The Age of Agility』収録、Veronica Schmidt Harvey & Kenneth P. De Meuse 編、282 ~ 301 ページOxford University Press 社https://doi.org/10.1093/med/9780190085353.003.0011
Pashler, H., McDaniel, M., Rohrer, D., & Bjork, R.(2008 年)『Learning Styles: Concepts and Evidence』『Psychological Science in the Public Interest』9 巻 3 号: 105 ~ 119 ページ https://doi.org/10.1111/j.1539-6053.2009.01038.x
Papadatou-Pastou, M., Touloumakos, A.K., Koutouveli, C., & Barrable, A.(2021 年) 『The Learning Styles Neuromyth: When the Same Term Means Different Things to Different Teachers』『European Journal of Psychology of Education』36 巻: 511 ~ 531 ページ https://doi.org/10.1007/s10212-020-00485-2
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