「障壁なき拡大」は、未来のリーダーシップ パイプラインを空洞化
ビジネスリーダーが社員のスキル開発を支援しなければ、リーダーシップ パイプラインは長期にわたって、危機に瀕することになります。
Liz Pavese
職場心理学者
Workday
ビジネスリーダーが社員のスキル開発を支援しなければ、リーダーシップ パイプラインは長期にわたって、危機に瀕することになります。
Liz Pavese
職場心理学者
Workday
世界中のエグゼクティブが、「障壁なき拡大」という究極の目標を追い求めています。これは、障害や遅延、追加コストを発生させることなく、企業を成長させるプロセスのことを指します。
AI による効率化を最大限に活用しようと、多くの大企業のリーダーは、自動化とさらなる機能強化がもたらす可能性を信じ、社員を AI に置き換える動きを加速させました。
理論的には、この戦略は理にかなっています。マネジメント階層が少なくなれば、意思決定が迅速になり、市場投入までの時間が短縮され、組織の肥大化が速やかに解消されるからです。しかし企業は今、業務の進め方を意識的に再構築することなく、こうした階層構造を排除するだけでは、目標を達成できないということを、苦い経験を通して学びつつあります。それはリーダーシップ パイプラインを着実に崩壊させているのです。
人財育成をソフトウェア ライセンスにすり替えながら、企業が次世代のリーダーシップへの移行を乗り切ることなど不可能です。企業の長期的な生き残りは、結局のところ、若手や中堅の人財をどのように扱うか、そしてマネジメントのあり方をどのように見直すかにかかっています。
レポート
多くのリーダーは、平面的な組織図を見ることで、「ヘッドカウントを削減すること」と「組織の足かせをなくすこと」を混同させてしまいます。そしてリーダーは、AI リテラシーに関するワークショップを数回開催し、職務内容に「AI スキル」という条件を追加し、これが仕事の未来だと語っています。
しかし正直に言うと、組織の階層をなくしたからといって、将来に必要な「能力」や「何が求められているか」をしっかりと考えていることにはなりません。コパイロットは、多くの場合、意図的なワークフォース設計を回避するための手段として扱われており、能力を向上させる真の推進力にはなっていません。
つまり、企業はスムーズな拡大を目指すのではなく、これまで新入社員を未来のリーダーやエグゼクティブへと育成してきた、重要な技能実習制度を削ぎ落としているのです。
データは、この変化がすでに始まっていることを示しています。
消えゆく基盤: Workday のワークフォース トレンド データでは、初めて過半数の企業 (51.9%) が積極的にヘッドカウントの削減を行っていることが明らかになりました。社員数が 10 万人を超える巨大企業の成長率はわずか 38% にとどまりました。これに対して、小規模企業の成長率は 59% でした。大企業は、人財の成長機会を奪い、その基盤を空洞化させています。
若手社員の採用凍結: Gartner 社の報告によると、世界のリーダー企業の 55% が、エージェント型 AI の導入により、新入社員の採用が減少すると予測しています。
企業はこれまで新入社員を未来のリーダーやエグゼクティブへと育成してきた、重要な技能実習制度を削ぎ落としているのです。
組織の基幹業務を消滅させてしまうと、オペレーションと認知能力の両面において、深刻なリスクを引き起こすことになります。
スタンフォード デジタル エコノミー ラボの調査によると、生成 AI が主流になって以来、AI の影響を受けやすい分野で働く若手従業員 (22 〜 25 歳) の雇用が、相対的に 16% 減少していることが明らかになりました。一方、全く同じ職種における経験豊富な専門職の雇用は横ばいを維持しました。現在、新入社員の採用を一時停止している企業は、2030 年までに深刻な人財不足に直面し、育成できなかった若手人財を雇い入れるために、将来的に莫大な費用を支払わざるを得なくなると、Gartner 社は警告しています。
パイプラインの危機は、単なる理論上の問題ではありません。米国では求人 1 件に対する外部からの応募件数がほぼ倍増している一方で、応募総数に対する内部からの応募件数の割合も、51% の組織で上昇しています。こうした強い外部圧力は、社内人財の流動性を停滞させています。その結果、若手社員が成長のために最も「変化や異動」を必要としている時期に、社内で身動きが取れなくなるという状況が起きています。
長年にわたり、リーダーシップの育成においては「70-20-10」というフレームワークが活用されてきました。これは、仕事での成長の 70% は、実務上のやりがいのある任務や経験から得られるというものです。AI は定型的な作業の再現や明示的なデータのコード化には非常に優れていますが、経験に基づいた能力 (つまり人間が実務での試行錯誤を通してのみ習得できる、明文化されていない意思決定、状況に応じた判断、そして業務に関する詳細な知識) を模倣できるようになるまでには、まだ時間がかかります。勤続 2 年以上の社員の定着率が急激に低下しているため、組織では貴重な組織固有の知識が流出している状態にあります。
初稿作成、基本的な財務分析、ちょっとしたステークホルダー対応といった「雑務」をすべて AI に任せてしまうことで、新入社員が失敗を経験し、そこから立ち直り、能力を磨いていくためのトレーニング機会を排除してしまっているのです。そのためバランスをとる必要があります。
これは「認知のオフローディング」という危険なサイクルを生み出すと、スイス ビジネス スクールの教授兼エグゼクティブ教育担当責任者である Michael Gerlich 博士は、自身の研究で述べています。 Gerlich 博士はこれについて、頭を使う作業を日常的に外部のテクノロジーに任せることだと説明しています。さらに、この行為は自動化された出力を批判的に評価する能力、自身の思考を監視する能力、そして自己を規制する能力を衰えさせてしまうと主張しています。このような構造的な依存は、業務に貢献しているという、従業員の意識を低下させ、燃え尽き症候群を著しく加速させることになります。
Gartner 社は、現在新入社員の採用を一時停止している企業は、2030 年までに深刻な人財不足に直面すると予測しています。
平面的な組織構造に意図的な設計が欠けている場合、効率的なモデルから混沌とした混乱状態へと陥る可能性が高くなります。自動化されたチェックリストや、デジタル化を重視したアクション プランでは、批判的判断力を養うことはできません。真のリーダーシップは、実際の職場において障壁に直面し、そこから学ぶことによって構築されます。
未来のパイプラインを枯渇させることなく持続的に拡大させるためには、エグゼクティブ リーダーは直ちに次の 4 つのアクションを起こさなければなりません。
平面的な組織構造が昇進機会を狭めている場合、テクノロジーを活用して意図的に成長機会を生み出すことができます。Workday の人財データによると、組織が動的な社内人財エコシステム (部門を越えたチーム編成、ギグ ネットワーク、多様なキャリアパス) を提供している場合、意欲的な従業員はそれらを活用して社内でスキルを向上させるため、結果として外部への転職活動が減少することが明らかになりました。これが、現代的な技能実習制度を組織全体で機能させる方法です。辿るべき長い「キャリアパス」がなくても、これにより、経験の浅い人財に対して、能力を高めるために必要な「反復練習」の機会を与えることができるのです。
動的な社内人財エコシステムは、外部への転職活動の減少につながります。
業界全体のベンチマークを使って、社員の定着率を判断するのはやめましょう。データは企業の規模や業界によって大きく異なります。そうではなく、毎月の離職率を、同規模の競合他社と直接比較するようにします。ある部門の離職率が 1 か月で 0.5% 以上上昇した場合は、組織の再編を一時停止すべきです。企業は、どんなソフトウェアでも決して代替できない、極めて重要で実践的な専門知識を失いつつあるのです。
生成 AI の活用を、完全に自己規制に任せてはいけません。若手社員向けに、タスクレベルでの明確なガイドラインを設ける必要があります。例えば、「まず自分で下書きを作成し、その後にコパイロットが編集する」といったルールを義務付けるなどです。マネージャに対して、単に最終的な成果物を評価するだけでなく、社員が問題を解決するためにどのように AI を活用したかをレビューすることも義務付けてください。社員が実際に実務を学べる機会を確保しましょう。
組織の耐久力を長期的に高めるには、マネージャの能力、燃え尽き症候群のスコア、およびウェルビーイングの指標を監視することが重要です。チーム リーダーが目標を達成する一方で、マネージャからのサポート、キャリアアップ機会、安心感が欠如している場合、そのリーダーは短期的に目標を達成するために、企業における未来のリーダーシップ資本を積極的に浪費していることになります。
こうしたリーダーが去ってしまう前に、介入してパイプラインを守る必要があります。
参考文献
Daugherty, P., & Wilson, J. (2022 年)、『Radically human: How new technology is transforming business and shaping our future』、Harvard Business Review Press、インタビュー
Gerlich, M. (2025 年)、『Cognitive offloading in the age of artificial intelligence: Psychological implications of excessive AI dependence』、Journal of Artificial Intelligence and Behavioral Science、3(1)、45-62
Shen, J. H., & Tamkin, A. (2026 年)、『How AI impacts skill formation』(arXiv Preprint No. 2601.20245v2). arXiv. https://doi.org/10.48550/arXiv.2601.20245
本分析について: 調査結果は、Workday が継続的に実施しているワークフォース調査に基づいています。この調査では、実際に稼働している数百万人の従業員を対象とし、5,000 社以上のグローバル企業のお客様から収集されたデータを匿名化し分析しています。この調査では、2024 年から 2026 年上半期までの長期にわたる継続的なデータを追跡しています。また、これらの指標では前回と同じ調査グループと、業界ごとに標準化されたべンチマークを用いて、市場全体の人財動向を抽出しています。ヘッドカウント、定着率、採用障壁において、現時点で確認できる主要な方向性を示しています。調査が進むにつれ、より具体的なトレンドが明らかになる予定です。
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