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クラウドへの移行: クラウドファーストのテクノロジー戦略を主導する

要約: CIO には、クラウド テクノロジーの選定と導入において、組織のチェンジ マネジメントを主導する責任があります。ここでは、どのようにそれを実行するかを解説します。

私たちにとって大切なものの保管場所は、ポケットでも、家でも、引き出しでもありません。たとえば、貯金や自分のプロフィール、大切な家族や仲間たちの写真。これらはすべてクラウド上にあります。

30 年前には考えもしなかったことが、いまでは当然のことになりました。実家の引き出しの奥から懐かしい思い出の写真が出てきたら、誰もがポケットから取り出したスマホで撮影し、クラウド上で永遠に保存しようと考えるでしょう。

これと同じように、ビジネスの大部分はクラウドに移行しています。クラウドでは、データはほとんど実体のない形で物理的な場所に保存され、どこからでもアクセスが可能です。多くの企業が、クラウドを信用した理由はなんでしょうか?理由は、めったに発生しない例外を除き、クラウドは「稼働しつづけている」からです。クラウド テクノロジーに移行した企業とそうでない企業の差は明らかです。クラウドを含むテクノロジーを最大限活用できている企業が成功をおさめている一方で、そうでない企業は、生き残るために苦戦しています。

ほとんどのビジネス リーダーにとって、テクノロジーがどのように提供されるかは、今や重要ではありません。これまでよりも早く、柔軟に、できればコストも削減しつつ業績向上につなげることができるか。これが重要なポイントです。McKinsey による ITaaS クラウドサーベイでは冒頭に、「クラウドに関する議論は終焉を迎えました。現在、ビジネスにおけるIT 業務の重要な部分をクラウド環境に移行しはじめています。消費者とテクノロジー ベンダーの双方にとって、この影響は非常に大きなものになるでしょう」と述べられています。

なぜでしょうか。最近の Forrester レポートによれば、ビジネス リーダーが SaaS への移行を決断した決め手は、75 % がアジリティの向上、74 % が実装と導入のスピードだったとしています。

ほとんどのビジネス リーダーにとって、テクノロジーがどのように提供されるかは、今や重要ではありません。これまでよりも早く、柔軟に、できればコストも削減しつつ業績向上につなげることができるか。これが重要なポイントです。

では、何が問題なのでしょうか。

クラウド型ビジネス サービスが効果的に動作するだけでなく、明らかに企業が競争力を得られるのであれば、なぜすべての企業がクラウドファースト テクノロジー アプローチを選択しないのでしょうか。理由は簡単、変化です。

もっと具体的に言えば、変化への恐れです。表向きは変化を求めているのに、長く続いた習慣を変えようとすると、大きな抵抗が生じます。エグゼクティブたちにとって、もっとも大きな障害は、新しいテクノロジーを活用するために、業務再編が必要なことです。これには、部門間のコラボレーションが不可欠ですが、ウォール・ストリート・ジャーナルCIO のブログで引用されたように、「変化に対するマネージャと社員の抵抗が、デジタル改革の障害となっている」ということがハーバード・ビジネス・レビュー の調査から明らかになりました。また InfoWorld の記事では、「クラウド コンピューティングが新たなスタンダードとなった今、その移行を妨げているのはテクノロジーではなく企業文化である」と指摘されています。

表向きは変化を求めているのに、長く続いた習慣を変えようとすると、大きな抵抗が生じます。

面白いことに、一部の企業でみられるこの変化への抵抗こそが、CIO の真価を引き出すことになるのです。キャリアを通じてコラボレーション スキルを磨きあげてきた CIO に求められるのは、新たなテクノロジーの導入だけでなく、クラウドの利点を最大限に実現するために必要な組織の「チェンジ マネジメント」を主導することです。

事実、Korn Ferry の調査 によれば、コラボレーション スキルは CIO に不可欠能力であり、CIO の解雇理由として一番多いのが、コラボレーション スキルの欠如なのだそうです。ウォール・ストリート・ジャーナルの調査では、「CIO の役割はいま、IT 部門を超えて全社的なものへと急速に拡大し、戦略的なビジネスに関する意思決定にまで及んでいる…」と述べられています。

また、Korn Ferry のエグゼクティブは、「ビジネスを再評価したり、戦略の調整と実行を行うなど、CEO としての手腕も発揮できる CIO には、『変革的 CIO』の称号が与えられ、テクノロジーのみを専門とする CIO よりも 25 ~ 35 % 高い報酬を得ている」と語っています。

 

 

 

 

結論: CIO には、クラウド テクノロジーの選定と導入に際して、組織のチェンジ マネジメントを主導する責任があります。雇用の安定と高い報酬を抜きに考えても、CIO は、変化の先駆者にふさわしい経験や性格を有している傾向が見られます(上記の図を参照)。ここでは、どのようにそれを実行するかを解説します。

結論: CIO には、クラウド テクノロジーの選定と導入に際して、組織のチェンジ マネジメントを主導する責任があります。

合意を形成する

たとえ新システムの導入を完璧に行ったとしても、ユーザーがそれを利用しなければ何の意味もありません。優れたコラボレーション スキルを持ち、合意形成が得意な CIO は、導入が完了するずっと前に、成功の礎を築いています。

Wake Forest University の CIO、Mur Muchane 氏は、インタビューで以下のように述べ、働きかけることの重要性を強調します。「オンプレミス モデルによるテクノロジー管理から、クラウド ファースト戦略への移行を目指す環境において、クラウドは驚異だと感じられることがあります。そうした懸念を解消するため、スタッフからエグゼクティブに至るあらゆるレベルの社員がアイデアを提供し、意思決定に参加できるようなプロセスを構築しました。この包括性と透明性のおかげで、財務と HCM の統合クラウド プラットフォームが大学にもたらしうる影響が明らかになりました」

いかなる組織にも適用可能な最善のプロセス、そしてすでに確立された多くのチェンジ マネジメント モデルは、様々な議論を生む非常に大きなテーマです。しかし、チェンジ マネジメントの専門家が全員同意することが一つあります。それは、センター・オブ・エクセレンス (COE) の構築です。つまり、それぞれの機能分野から専門家を集め、クラウド移行に対するベスト プラクティス実現のため、意見をすり合わせていくことが必要です。

AWS のエンタープライズ戦略のリーダーである Stephen Orban 氏は、クラウドのための COEの構築に関する記事の中で、「これまでのキャリアで、多くのチェンジ マネジメント プログラムの失敗と成功をみてきましたが、そこから学んだのは、専門のチームを編成し、企業にとって最重要イニシアチブの所有権を一本化することが、いち早く結果を出し、変化を管理する上で非常に効率的なやり方だということです」と述べています。

CIO が、社内の抵抗を乗り越え、変革的リーダーとしての地位を得るために、他に何ができるでしょうか。それぞれの立場別に見ていきましょう。

エグゼクティブ: エグゼクティブたちを説得するために必要なことは、誤解を正し、長期的なビジョンを強調することです。

いまだによく聞かれる誤解のひとつに、オンプレミスの方がデータを安全に保存できる、というものがあります。「過去、IT 専門家たちは、距離が近いほどセキュリティを保ちやすく、データを保護するためにはサーバーを実際に見て管理する必要があるという考えに囚われていました 」。Workday の最高信用責任者 (CTO)、Josh Defigueiredo はブログ記事の中で、こう述べています。「しかし、クラウド アプリケーションがエンタープライズ分野を席巻した今、より信頼性が高く、経済的に持続可能なオプションが利用可能になりました。距離の近さは、セキュリティとデータの可用性において、もはや重要な意味を持ちません」

また、Teradata の Mark Clark は、CIO についての記事の中で「たとえば、Amazon のセキュリティ認証をみた場合、Amazoh は、600 人規模のセキュリティ部門を有しています。世界で一番大きな企業でさえも、サイバー セキュリティにそこまでの人員を配置しないでしょう」と述べています。事実、クラウド上のセキュリティ、特にパブリック クラウドでのセキュリティを、最低限達成しなければならないこととする動きが活発になってきています。

財務においては、コンプライアンスに関する懸念がありますが、実際に、多くの企業がクラウドへの移行を決めた理由は、より簡単で透明性の高いコンプライアンス、さらに、法令の変更に合わせたサービスのアップデートをベンダーに任せられるという安心感にあります。EU で施行予定の EU 一般データ保護規則 (GDPR) へのコンプライアンス確保のために、クラウドへの移行に踏み切る企業もでてきました。

よくある誤解を正すことができたら、次は、ビジョンへの賛同を得る必要があります。そこではじめて、どのテクノロジーが最善かを決めることができるのです。これは、仕事のやり方を根本的に見直すいい機会となります。WeWork の CIO である Mike Hite 氏は、これまで数多くのクラウドを導入した経験から、次のようなアドバイスをブログで公開しています。「新しい財務管理システムで、既存のビジネス モデルを踏襲しようとしないことが肝心です。ツールを活用し、変化を生み出しましょう」

結局、デジタル時代における成功はテクノロジーではなく戦略にかかっている、と MIT Sloan Management Review では述べられています。Rolls Royce の人事 IT 担当ディレクターである Mark Judd 氏は、ブログの中で以下のように書いています。「テクノロジーそのものに着目するのではなく、それがビジネスにもたらす影響についてのビジョンを展開すること。アイデア、つまり常に流動的なものに投資をしているということを、全社に周知させる必要があります

Deloitte の 2016 年度グローバル CIO サーベイによれば、「CIO は、個々のテクノロジーとその ROI についての話を、企業のデジタル アジェンダを支援・推進するための機能構築に向けた議論へと展開することができます。このように議論の内容を発展させることにより、CIO は、現在、そして未来においても価値を創出できる技術投資、能力、人財を見極めることができるようになります」

いまだによく聞かれる誤解のひとつが、オンプレミスの方がデータを安全に保存できる、というものです。

ビジネス ユーザー: IT 部門がクラウド移行を主導、あるいはサポートしているかを問わず、CIO は、財務、人事、プロダクト、マーケティングなどの分野のビジネス ユーザーに対し、フィードバックを集め、懸念事項を理解し、移行プロセスへの参加をできる限り求める必要があります。

シカゴ大学の副学長補佐、Mike Knitter 氏は、インタビューの中で、このように話します。「従業員が変化に備え、変化に対して積極的に対応できるようにするために講じた施策の中で非常に効果的だったのが、変化をブランド化することです。大学の価値と文化を反映したテーマに沿って、変化に関するキャンペーンを展開しました」

事実、ストーリーテリングは、より多くの CIO が重視するスキルとなっています。Workday の CIO、Diana McKenzie は、ブログの中で「ビジネスの価値を人に伝えることは、多くの IT 担当者にとって難しいことです。私たちは普段、結果ではなく活動ベースで会話をしがちです。たとえば、『ビジネス パートナーが新たな地域で事業を始めることになったため、要望により X システムを提供しました』などです。これをひっくり返し、まずは結果から始めて、その後でテクノロジーの役割を説明するようにしましょう」

バイオ・医薬品企業であるアストラゼネカの CIO、Dave Smoley 氏は、物語のパワーを活用して、複数年にわたる IT 改革を実行しました。Smoley 氏は、IT 部門が競争優位性の実現に貢献できるようにしながら、IT コスト半減を実現しました。社員の説得に関して、Smoley 氏は、CIO に関する記事の中でこう語っています。「バラバラの点を結びつけ、説得力のあるストーリーを作り上げることが必要です。そしてそのストーリーは、 CEO と面会した社員が共有でき、ツールの導入を心待ちにさせるようなものである必要があります」

IT スタッフ: 教育的で包括的な、コラボレーション重視のアプローチを採用すべきなのは他の社員と同様ですが、IT 部門にはさらなる配慮が必要です。AWS コンファレンスのレポートによれは、「多くの場合クラウドへの移行により、IT 部門の社員は自分の継続雇用について不安を感じます。しかし、実際にはクラウド移行による人材削減は最小限に抑えられ、優秀で必要度の高い人財採用の可能性が高まっているそうです。これは、クリエイティブ業界にとっては欠かせないものです」

しかし、IT 部門の社員にとっては、クラウドへの移行が日常業務にどう影響するのか考えざるをえません。そのため、IT 部門を無力な傍観者にするのではなく、クラウドへの移行に積極的に参加できるように働きかけることが非常に重要です。Wake Forest 大学の Mur Muchane 氏はこのように助言します。「IT 部門の中心人物たちと、早い段階で協力関係を築くことです。私たちの場合、最初の時点で IT をプロセスに参加させたことで、強固なコラボレーションが生まれ、プロジェクトを成功に導くことができました」

IT の早期参加を実現できなければ、これがのちのち大きな地雷となります。Computerworld記事の中で、とある CIO も同じような見解を示しています。「初期の段階でありがちな失敗の一つとして、IT 部門で長い経験を持つ社員にとって、この移行がどれほど脅威的に映るのかを理解しきれていない点が挙げられます」

トレーニングも重要です。新たなクラウド システムの理解だけでなく、既存アプリケーションを近代化する最善の方法についての社員教育です。そうすることで、単にプラットフォームが変わっただけで非効率な方法で運用されるという、形ばかりの移行を避けられます。もちろん、悪い点ばかりではありません。Stephen Orban の言葉にもあるように、「すでにクラウドで成功をおさめるために必要な人財はそろっている」のです。しかし、成功するためには、精神的にも、そしてスキルという面からも、全社員が新システムに問題なく移行できるよう、トレーニングを実施する必要があります。

IT 部門のキャリア変更について、ベテラン CIO は InfoWorld記事でこのように述べています。「クラウド環境がより複雑になり、相互関連性が高まるにつれ、IT 部門が提供すべき、システムの動作についての一般的な理解や知識の量が増えていきます。シンプルな縦割りテクノロジーの時代は終わったのです。システムの構築、維持、修正を行うためには、すべてがどのように関連しているかを理解しなければなりません」

最近行われた Workday とお客様との会議の場で、興味深い意見がビジネス リーダーから寄せられました。それは、クラウドへのアップグレードのメリットは、IT 部門の負担をなくすことよりも、むしろ、これまで達成が不可能だと思われていたことの実現に向け、全社レベルで社員の支援が可能になったというものです。

さらに、ビジネス ユーザーたちも同じ移行の道をたどるため、コラボレーションの新たな機会が見つかる可能性があることや、従来の非効率なサーバーを利用していた時代には存在しえなかった新たな場所で、IT スキルを活用してビジネスの進歩に貢献できる可能性があることを、IT 部門の社員たちに対して強調することも大切です。

IT 部門の社員にとっては、クラウドへの移行が日常業務にどう影響するのか考えざるをえません。そのため、IT 部門を無力な傍観者にするのではなく、クラウドへの移行に積極的に参加できるように働きかけることが非常に重要です。

未来に向けて

テクノロジーが日々刻々と進化する今、企業の変革を主導するためのベスト プラクティスへの需要は今後も継続していくでしょう。すでにクラウドの導入に成功した企業は、その迅速なインフラを活用し、ビジネスをかつてない速さで進化させています。合意形成を行い、大胆かつ実現可能な将来のビジョンに関するストーリーを語るという CIO の能力は、勝者と敗者を分ける重要な要因です。つまり、新たに姿をあらわしたテクノロジーが、我々の想像もつかないような結果をもたらす世界において、企業内の抵抗を乗り越えながら、最善のツールを導入できる CIO は、企業の成功に貢献できるだけでなく、今後長きに渡り、有意義で充実したキャリアを謳歌することができるのです。